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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)537号 判決

控訴人

野州工業株式会社

右代表者

大島利男

右訴訟代理人

岡田正美

被控訴人

坂根建興株式会社

右代表者

坂根一蔵

外四名

右五名訴訟代理人

平井博也

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因第一項ないし第四項の事実関係は、すべて当事者間に争いがない。

二被控訴人らは、控訴人の被控訴人坂根建興に対する準消費貸借契約に基づく債権残額四、九二四、五四四円につき、消滅時効を援用するので検討するに、右準消費貸借契約において弁済期の定めがなかつたことは当事者間に争いがないところ、この場合、民法五九一条一項において、貸主はいつでも相当の期間を定めて返還の催告ができる旨定められ、換言すれば貸借成立のときからその権利を行使しうる状態にあるというべきであるが、現実に履行を請求しうるのは相当の期間経過後であるから、その消滅時効の起算点は、貸借成立のときから相当の期間を経過したときと解すべきである(現実に催告をし、それに定められた期間の満了時ではないし、また、貸借成立のときそのものでもない。)。

そうすると、本件の場合、元来の債権が売掛金であることを考慮すれば、相当の期間は長くとも一か月と解するのが相当であり、前記準消費貸借の成立した昭和三四年六月一六日から一か月を経過した同年七月一七日から消滅時効の期間が進行し、被控訴人らの援用する一〇年の時効期間を経過した昭和四四年七月一六日の経過をもつて、控訴人の本件債権は時効により消滅したと認められる。(時効中断の主張はなく、控訴人が坂根建興を被告として提起した原裁判所昭和三六年(ワ)第二〇〇号貸金請求訴訟が休止満了により取下の効果が発生したことは当事者間に争いがないから、右訴訟提起に時効中断の効力がないことは明白である。)。

三控訴人は、被控訴人坂根建興の消滅時効の援用は権利の濫用である旨主張するが、その根拠とするところは、前記前訴の休止満了が控訴人の訴訟代理人の過失によるもので控訴人自身の責によるものでないとの点にあるが、たとえそうであるとしても、右の事態は結局は控訴人側の事情にすぎず、なんら被控訴人坂根建興の責に帰すべき理由はない。したがつて、その時効の援用を信義に反するとして非難すべきいわれは全くない。

四次に控訴人は、債権の時効消滅の場合には、牴当権の附従性を緩和して考え、存続すると解すべき旨主張するが、その挙示する種々の理由も、納得しうるに足りるものはなく、要するに右主張は立法論を含む独自の見解というほかはない(なお民法三九六条、三九七条において、牴当権のみが債権と離れて消滅する場合が認められているが、このことが、逆に債権消滅の場合に抵当権が存続するとの主張の根拠とならないことは、いうまでもない。)。

五そうすると、控訴人の被控訴人坂根建興に対する債権の消滅とともに、その他の被控訴人らの設定した本件抵当権も消滅に帰したわけである。

六よつて、控訴人の本件請求はすべて理由がなく、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却すべきものとし 控訴費用につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀬戸正二 小堀勇 小川克介)

物件目録〈省略〉

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